エルヴィス、全米を揺るがす(1956年)
1956年9月9日、テレビ番組「エド・サリヴァン・ショー」のスタジオ。観客席は熱気で満ち、舞台袖ではスタッフが緊張の面持ちで指示を飛ばしていた。「腰の動きは映さないように」とエド・サリヴァンからの注意が飛ぶ。だが、舞台に現れたエルヴィス・プレスリーの熱量は画面を通して視聴者に伝わり、若者たちはテレビに釘付けになった。
今の感覚で見れば、決して激しいパフォーマンスとは思えないが、当時の保守的な大人たちは眉をひそめ、新聞には「不道徳な動き」「若者を堕落させる」という記事が並んだ。家庭からも抗議の電話が殺到したが、エルヴィスの歌声とステージングは、若者にとって新しい時代の象徴だった。
1956年1月に発売された「ハートブレイク・ホテル」は大ヒットを記録し、エルヴィスは若者の心をがっちりとつかんでいた。
テレビやラジオ、レコードショップ――どこにいても彼の歌が耳に入り、体を揺さぶる。若者たちは声に合わせて歌い、ステップを踏み、ロックを自分たちの文化として受け入れていった。大人たちの非難や規制は、その熱を止めるどころか、かえって火に油を注ぐ結果となった。
こうして、新進の若手シンガーだったエルヴィスは、ロックンロールの象徴へと昇りつめていったが、嵐はまだ吹き始めたばかりだった。彼に続いて新たな旋律を紡ぐ若き才能たちが、スタジオや街角、ラジオの波間で静かに息を潜めていた。 そして、彼らが創り出す波は、若者たちの胸をさらに大きく揺さぶろうとしていた。