1957年のステージで、ジェリー・リー・ルイスはピアノに火を放ち、鍵盤を包み込む炎の中で弾き続けた…という逸話は広く知られている。後年、本人は否定しているが、彼のエネルギッシュな演奏を目の当たりにして、まるでピアノに火がついたかのようだ、と感じた観客の熱狂は本物だっただろう。
同じ頃、バディ・ホリーはザ・クリケッツと共に「That'll Be the Day」で全米1位を獲得し、ロックンロール界に登場。ツアーやテレビ出演で知名度を高め、精力的なパフォーマンスを行っていた。
南部のカントリーやR&Bの影響を受けたジョニー・キャッシュは、フォーク的な語り口と、ベース音とコード・ストロークを交互に刻む独特のリズムを融合させ、低く響く声で罪や赦し、労働や孤独といった庶民の物語を歌い上げた。そのスタイルはロカビリーや初期ロックンロールにも通じ、享楽的だったロックに内省と人間的な深みをもたらした。
カントリー志向のデュオから活動を始めたエディ・コクランは、ギターを軸にしたシンプルで力強いロックンロールを築き、鋭いリズム感と多重録音の工夫で若者の感覚をとらえた。彼は音楽に日常のリアリティと時代の空気を持ち込み、ロックの表現を大きく広げていった。
こうして、ロックンロールは多様化し、単なる流行を超えて文化として成熟し始めた。ルイスの火のようなピアノ、ホリーの静かな熱狂、キャッシュの深みある歌声、コクランのギターサウンド――次々と現れる新たな才能が次世代の音楽を切り開く道標となっていった。