…to be continued
「Back to the 60’s」とMOR(1973 – 76年)
ベトナム戦争の終結(1975)やウォーターゲート事件(1974)によって国家への信頼が揺らぎ、60年代の理想が色あせた頃、アメリカの音楽界で広まったのが「Back to the 60’s」ブーム、そして、“MOR(Middle of the Road)”と呼ばれたポップスだった。MORとは、ラジオ局が使っていた業界用語で、どんな場でも安心して流せる音楽を指しており、“イージー・リスニング”や“ソフト・ロック”と重なる領域のサウンドだった。
50〜60年代のヒット曲を散りばめてベトナム戦争前夜の青春を描いた映画「アメリカン・グラフィティ」(1973)や、1974年から放送開始されたTVドラマ「ハッピー・デイズ」(日本では1978年に放送)などのヒットは、60年代の音楽・文化への郷愁に浸る“Back to the 60’s(あるいはBack to the 50’s)”ブームを巻き起こした。
1973年にカーペンターズが発表したアルバム『Now & Then』の大ヒットも、そうした時代の空気を反映していた。60年代のヒット曲を架空のラジオ番組仕立てで再現した「Oldies Medley」は、懐かしい曲たちを現代の視点で回想するオリジナル曲「イエスタデイ・ワンス・モア」が優しく包み込んでいた。
そして、この年のヒットチャートには「やさしく歌って」ロバータ・フラック、「幸せの黄色いリボン」トニー・オーランド&ドーン、「追憶」バーブラ・ストライサンドなど、後々まで残るMOR的な曲が数多く並んでいた。
Tony Orlando & Dawn
翌年以降もこうした傾向は続き、バリー・マニロウ、デヴィッド・ゲイツ、ヘレン・レディ、アン・マレー、オリビア・ニュートン=ジョン、ジャニス・イアン、デビー・ブーン、キャプテン&テニールなど“MOR”系と呼ばれたミュージシャンのヒット曲が人気を博した。
これらの曲は、しばしば批評家から「安全すぎる」「中産階級的」と評されたりもしたが、当時のアメリカでは、反抗や怒りよりも“癒やし”や“穏やかな幸福感”を求めるリスナーが増えていた。
この頃、スウェーデンから登場したアバが広く人気を集めたのも、華やかなメロディと完璧なコーラスワークが、穏やかな幸福感を求める時代のムードに共鳴していたからだろう。
しかし70年代後半になると、ディスコサウンドが熱狂を取り戻し、さらにパンクやニューウェイヴが怒りや熱いエネルギーを発散し始める。そんな中で、MORが残したメロディの普遍性と洗練されたスタジオワークは、80年代のアダルト・コンテンポラリーへと受け継がれていった。
1970年代半ばのアメリカ音楽界は、60年代に嵐のように吹き荒れた激しい反抗・混乱の後に訪れた“静かな回復の時代”だったと言えるかも知れない。