スタックス・レコードの栄光と遺伝子──南部の魂が刻んだ音の系譜

(1957 – 1975)

1975年、メンフィスのスタックス・レコードが倒産した。サザン・ソウルの象徴であり、黒人音楽の誇りを体現したレーベルの終焉は、ひとつの時代の幕切れを意味していた。

スタックスは1957年、ジム・スチュワートが設立した「サテライト・レコード」を前身とし、1961年に「スタックス・レコード」として再出発した。カントリーとR&Bが交差するメンフィスのスタジオでは、黒人も白人も同じ空間で演奏し、互いの音を共有する──この混ざり合いこそがスタックスの真髄だった。

1962年のブッカー・T&ザ・MG’s「グリーン・オニオン」は、その土臭くもタイトなグルーヴを象徴する名曲となった。続いてオーティス・レディングが登場し、「リスペクト」などで南部の情熱を世界へ伝えた。洗練されたモータウン・サウンドとは対照的に、スタックスの音は体温と汗の匂いを感じさせるものだった。

「GREEN ONIONS」(Live)Booker T. and MG's
「Respect」Otis Redding

また、サム&デイヴの「ソウル・マン」では教会とストリートの熱が同居していた。そのグルーヴは、スタックスの象徴的な響きとして世界に広がっていく。

「Soul Man」Sam & Dave

ローリング・ストーンズのミック・ジャガーは、後年のインタビューで、バンドのリズム感や演奏の土台にブラック・ミュージック、とりわけサザン・ソウルの要素があったと語っている。またビル・ワイマンも、スタックス系のベースラインやグルーヴが自身の演奏に影響を与えたと振り返っている。

だが1967年末、オーティスが事故死。提携先のアトランティック・レコードとの契約も終了。音源の権利を失ったスタックスは再建を賭けて1969年に“ソウル・エクスプロージョン”を展開した。これは、新人や無名アーティストを大量に起用し、一挙に27枚のアルバムを発表した再生キャンペーンで、その象徴がアイザック・ヘイズだった。

そして、1971年に世界的ヒットとなった映画『シャフト』のテーマ曲や、ステイプル・シンガーズの「アイル・テイク・ユー・ゼア」で、スタックスは再び脚光を浴びる。

「Theme From Shaft」Isaac Hayes(「Shaft」Opening Credit)
「I'll Take You There」The Staple Singers

しかし1972年、スタックスはコロムビア(CBS)と配給契約を締結するも、十分なプロモーションが得られず、販売網も滞るなど不利な条件が重なった。経営不振と社内不正、訴訟の連鎖により、1975年にスタックスは幕を閉じた。

それでも、その影響は、70年代後半のロックの深層にしっかりと残された。ミック・ジャガーは、スタックスのリズムやブラック・ミュージックの影響がローリング・ストーンズの基盤の一部であることを語っており、ビル・ワイマンもスタックス系のグルーヴを自身の演奏に取り入れていたと回想している。

「Miss You」The Rolling Stones

80年代に入ると、エルヴィス・コステロがアルバム『ゲット・ハッピー!!』で、サザン・ソウルへの敬意を示した。コステロはスタックスの音楽について、その音の持つ“生々しさ”や“誠実さ”に惹かれ、自身の音楽にその要素を取り入れようとしたと語っている。

「I Can't Stand Up For Falling Down」Elvis Costello & The Attractions
(アルバム『Get Happy!!』収録)

パブリック・エネミーの「ファイト・ザ・パワー」(1989)は、ジェイムズ・ブラウンの楽曲をサンプリングし、黒人音楽の要素を取り入れながら、社会的・政治的メッセージを強く打ち出したヒップホップの代表曲のひとつとなった。

「Fight The Power 」Public Enemy

2000年代以降も、エイミー・ワインハウスは「バック・トゥ・ブラック」で、ヴィンテージ・ソウルやサザン・ソウルに通じる要素を現代的なポップ/R&Bとして再解釈し、高く評価されている。

「Back To Black」Amy Winehouse(Live at Other Voices, 2006)

アデルやブルーノ・マーズも、ソウルやファンクといったブラック・ミュージックの影響を取り入れており、過去のソウル音楽へのオマージュを感じさせる楽曲やパフォーマンスを展開している。

スタックスが世界に向けて示したのは、人種やジャンルを超えて音楽でつながる体験だ。白人も黒人も、ロックもソウルも、同じリズムのうねりに身を委ねる。その瞬間に生まれるグルーヴこそ、メンフィスで生まれた奇跡だった。

…to be continued