…to be continued
"シンガー・ソングライター"の時代〈イギリス編〉(1969‐75年)
1960年代の終わり、アメリカではベトナム戦争や公民権運動、ウッドストックが掲げた理想に対する失望などが渦巻き、社会を変えようとする歌よりも、シンガー・ソングライターたちの私小説的な歌が多くの支持を集めるようになった。
その流れは海を越え、イギリスにも届いたが、背景は異なっていた。1960年代半ばに活気を見せた"スウィンギング・ロンドン"の熱気はすでに遠く、経済の停滞、ストライキや物価高、北アイルランドでの宗派対立など、社会の先行きは不安を帯びていた。
当時の人々の生活は、ケネス・ブラナー監督の映画「ベルファスト」(2021)で描かれている。若者たちは理想や抗議よりも、もっと身近な人間関係や心の平穏に関心を向けつつあった。
1968年に結核で倒れたキャット・スティーヴンスは、療養生活を経て1970年に復帰、親子の対話という形で自らの内面を見つめた「父と子」を歌い、静かな共感を呼んだ。
同じ頃、エルトン・ジョンは作詞家バーニー・トーピンと出会い、率直な感情を込めた「ユア・ソング」を作り上げた。後年、彼は「これは僕の気持ちだ、と素直に言えた曲だった」と振り返っている。
「悲しい歌を明るく聴かせる――それが僕のスタイルだ」と語ったギルバート・オサリヴァンは、軽やかな旋律で悲しみを穏やかに包み込む歌を次々と生み出した。
また、伝統的なイギリス・フォークを基盤としつつ、現代的なコードやアレンジを巧みに取り入れたサンディ・デニーは、イギリスのシンガー・ソングライター潮流の中心的な存在となり、レッド・ツェッペリンの曲にも唯一の女性ボーカルとして参加した。
スコットランド生まれで、ロンドンのフォーク・クラブで活動を始めたアル・スチュワートは「イン・ブルックリン」で異国の孤独を歌い、後年「それまでの英国の歌は寓話だったが、僕は実際の恋と孤独を書きたかった」と語っている。
自分の正直な心情を、自分の言葉で、自分の声で歌う――1960年代末から1970年代初頭にかけて、イギリスのシンガー・ソングライターたちが起こした静かな波は、やがて新たな潮流を呼び寄せていく。
より生々しい生活の息づかいを求めるパブ・ロック、内省的な音楽を華やかな演劇的世界へと発展させたグラム・ロック、そして若者たちの鬱屈を爆発させるパンク・ロック――シンガー・ソングライターたちが紡ぎ出した素朴な旋律と誠実な言葉は、1970年代以降のイギリス音楽の根幹に息づき続けることになる。