ロックンロール最初のレコード(1951年)

ロックンロール最初のレコードは何か?

学校で教わる音楽史では触れられることのないテーマだろうが、ロックファン同士で「ロック史」の話になると、必ず話題に上る問いだ。当然、いくつもの説がある。第0回で紹介したシスター・ロゼッタ・サープの「ストレンジ・シングス・ハプニング・エブリデイ」も候補のひとつだが、そんな中で、多くの研究者や評論家が挙げるのは、1951年に録音されたジャッキー・ブレンストン&ヒズ・デルタ・キャッツの「ロケット88」だ。

「Rocket "88"」Jackie Brenston & His Delta Cats

「あのときのアンプの音? 偶然だったんだよ。でも、あの歪んだ響きが曲を特別なものにしたんだ」――そう振り返るのは“His Delta Cats”という名義で演奏したアイク・ターナー。彼は後にティナ・ターナーとのコンビで知られることになるが、当時のアイクはまだ20歳前後。レコーディング時に、たまたま壊れてしまったギターアンプの雑音が、後にロック・ギターを象徴する荒々しい音を生んだ。

*参考(後年のアイク・ターナー)
「Baby Get It On」 (1975)Ike and Tina Turner

1951年、メンフィスの小さなスタジオで、この録音を見守ったサン・レコードの創立者サム・フィリップスは「いい音楽はジャンルを問わず心を揺さぶる」と主張し、「オリジナリティのあるアーティストの育成、音楽業界の自由性」を掲げ、録音中に生じた偶然の音も積極的に取り入れていたという。

ドライブ感あふれる歌声と即興のサックス、リズムの小さなはずみが重なり、偶然と冒険心が合わさって生まれた「ロケット88」は、後年、多くの人々から「ロックンロール最初のレコード」と呼ばれることになった。

曲名の"88"は、オールズモビル社が1949年に発売した最新モデルの車。1950年代のアメリカでは、車は自由の象徴であり、スピードと力強さのシンボルだった。この曲は、車とスピードと青春を賛美する歌であり、後のロックが繰り返し歌うテーマの先駆けでもあった。

そして、この2年後、同じサン・レコードのスタジオに一人の青年がやって来る。母親へのレコードを作るだけのつもりだったその青年は、のちにアメリカの、さらには世界の音楽界を大きく揺るがすことになる。

…to be continued