2018年:サブスク文化の芽生え
2018年のJ-POP界は、ひとつの大きな転換点を迎えた。日本レコード工業会2018年末報告書によれば、この年、ダウンロード市場は前年よりも減少し、ストリーミングが初めてダウンロードを上回った。これを大きな起点として、以後、サブスクの波及によるヒットという現象が数多く生まれることになる。
この年、CD売上、ダウンロード、ストリーミング、ラジオ再生、SNSなどの指標を総合してランキングを作成するBillboard Japan Hot 100で、年間ランキング第1位となったのは米津玄師の「Lemon」だった。
米津玄師の現代性は、曲の内容だけではなく、活動全体に現れている。彼の活動のスタートとなったのは、「ハチ」名義でニコニコ動画にボカロ曲を投稿し、レコード会社を通さず直接リスナーに届けることだった。
「ハチ」名義の代表作には「マトリョシカ」(2010年)、「パンダヒーロー」(2011年)などがあり、これらは今でも根強い人気がある。
彼は音楽だけでなく映像までも自ら手がけ、作品の世界観を丸ごと作り上げてきた。それは、昔のインディーズ・ミュージシャンが、街角ライブや手作りCDで少しずつファンを増やしていったことと似ている。しかし、彼はそのプロセスを、ネットとデジタルの力を使って、ひとりで再現してみせた。
「ハチ」名義での活動は、まさにインディーズ的な自己表現とファンとの交流が、デジタル空間の中で展開されたものだった。そして、作品の完成度の高さが、メジャーシーンの目を引き、やがて映画やドラマの主題歌、CDリリース、フェス出演へと広がっていった。その経緯は、かつてのインディーズ文化を受け継ぎながら、デジタル世代ならではの感性でアップデートした新しい表現の形と言えるだろう。
また、この年、Billboard Japan Hot 100年間ランキング第2位に輝いたのは、DA PUMPの「U.S.A.」だった。この曲のヒットは、テレビやイベントといった旧来メディアの影響力がなお健在であることを示すと同時に、世代を超えて共感を呼んだ稀な現象でもあった。
もっとも、その始まりは派手なものではなかった。発売当初はショッピングモールなどでの小規模イベントを地道に重ねる日々。だが、観客による投稿動画がSNSで拡散し、「ダサかっこいい」という言葉とともに瞬く間に広がった。そして、一気に全国的なムーブメントへ――ここにも、ネット文化は大きく関わっていた。
こうして、ネットによる拡散力は、ヒットの行方を左右する決定的な要素となっていった。次回は2017年にさかのぼり、ストリーミング台頭前夜のJ-POP界をふり返ってみたい。