2019年:デジタル文化の進化と多様化

2019年はコロナ禍直前の時期。この頃に普及し始めた配信サービスやTikTok、SNSといったネット文化が、後のコロナ禍で急速に進化・拡大し、新たなJ-POPの潮流を生み出す土壌となっていった。

その兆しが鮮明にあらわれたのが、この年にヒットしたKing Gnuの「白日」だ。メロディもリズムも複雑で、一度聴いただけでは口ずさむのが難しい。それでもドラマ主題歌として強い印象を残し、独自の世界観によって多くの人の記憶に刻まれた。

「白日」King Gnu

かつて音楽界では「口ずさみやすさ=ヒットの条件」とされていた。しかし、サブスクリプションの普及により、気軽に曲を繰り返し聴ける環境が普及したことで、難解な楽曲でも「耳に残る強烈な個性」があればヒットするようになった。「白日」の成功は、まさにその象徴的な出来事だったと言えるだろう。

この年、CDセールスとデジタルストリーミングという二つの主要な指標で、全く異なる楽曲がトップを占める現象が起こったことも、J-POP界の大きな変化を物語っている。 オリコンやビルボードジャパンの年間シングルCDランキングでは、King & Prince、嵐、乃木坂46、EXILEなどが上位を占め、Billboard Japanのストリーミング年間チャートでは、Official髭男dism、LiSA、米津玄師などが上位を占めた。

「Pretender」Official髭男dism
「紅蓮華」LiSA(アニメ「鬼滅の刃」竈門炭治郎 立志編 オープニングテーマ)

さらに、ストリーミングと並んで注目されたのが、YouTubeとカラオケのランキングだ。2019年の国内年間トップトレンド音楽動画ランキングでは、Official髭男dism、King Gnu、あいみょん、米津玄師といったアーティストが上位を占めた。 一方、カラオケランキングでは、米津玄師、MISIA、Mrs. GREEN APPLEなど、前年からのヒット曲がロングセラーとして支持を集め、どちらもCDセールスとは異なる動きを見せていた。

「アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN) 」MISIA
「青と夏」Mrs. GREEN APPLE

スマートフォンを通じて、誰もがいつでもどこでも気軽に音楽に触れられる時代。もはやひとつのチャートだけで「ヒット曲」を語ることは難しい。かつて、テレビやラジオのベストテン番組が示していたような“みんなが知っている曲”という共通の指標は、少しずつ薄れていった。世代も性別も関係なく、誰もが口にするようなヒット曲は生まれにくくなり、音楽の聴かれ方もまた多様化していく。

そんなJ-POPの転換を象徴する出来事が、実はこの前年――2018年にすでに起きていた。次回は、その背景をもう少し掘り下げてみたい。

To Be Continued...