2021年:J-POPとネット文化の結びつき

2021年のJ-POP界は、コロナ禍でリアルの音楽活動が制限される中、オンライン配信やSNSの活用が急速に広がった。小規模ライブや都市型フェスはまだ制約下での開催にとどまっていたが、配信やハイブリッド型のライブが徐々に定着し、全国のファンが画面越しに参加できる新しい音楽体験が生まれ始めた。

ヒット曲も、ネットや配信と結びつくものが増加した。その代表例が優里「ドライフラワー」だ。2019年リリース後しばらく注目されなかったが、TikTokで弾き語りや短尺動画が拡散され、若年層の共感を呼んだ。これをきっかけにストリーミング再生が急増し、カラオケやメディア露出にも波及して2021年のヒット曲となった。

「ドライフラワー」優里

そして、この年の印象的な大ヒット曲といえば、前年2020年10月にリリースされたAdo「うっせぇわ」だろう。登場とともに注目を集め、2021年春にはBillboard JAPANチャートでストリーミング累計再生回数1億回を突破する大ヒットとなった。

「うっせぇわ」Ado

怒りや反抗を歌に託すこと自体は新しいものでない。しかし、その伝わり方や拡散の仕方は時代ごとに姿を変えてきた。「うっせぇわ」の背景には、椎名林檎やサンボマスター、さらに時を遡れば、尾崎豊やブルーハーツ、吉田拓郎といった先人たちの叫びが折り重なっている。

「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」(2004)サンボマスター
「終わらない歌」(1987)THE BLUE HEARTS
「人間なんて」(1971)吉田拓郎

ただし、「うっせぇわ」には現代ならではの響きがある。スマホの小さなスピーカーやイヤホン越しでも耳に響く鋭くてまっすぐな音作り。単刀直入な歌詞。SNSで誰かがシェアしても一瞬で記憶に残るインパクトの強さが、この曲にはある。

そして、かつては尾崎豊の鋭い眼差しやブルーハーツや吉田拓郎の汗にまみれた姿が、反抗の象徴だったのに対し、Adoの姿は明かされていない。そのために歌声は、特定の人間の感情ではなく、誰もが抱く普遍的な苛立ちとして響く。匿名性によって、現代のSNSでのつぶやきや愚痴と同じく、個人の怒りを無数の人々が自分のものとして受け止める。そして、それぞれの感情を自由に重ね合わせる。

こうして、過去からの継承と、ネット文化が発展した現代の状況を考えあわせると、「うっせぇわ」は“今日の叫び”として、いっそう鮮やかに響いてくる。

次回は2020年、コロナ禍で進化したメディアミックスの大ヒット曲を深掘りすることにしたい。

To Be Continued...