2005年:iTunesの登場が及ぼした変化の兆し
2005年8月、iTunes Music Storeの日本上陸は、後のJ-POP界を変えていく起点となった。iTunesの登場は“PCからのダウンロード”を一般化し、グローバルな音楽市場との接続を意識させた。「音楽を所有する」から「データとして手に入れる」時代への移行が現実味を帯び、CDショップに並ぶことなく、ワンクリックで楽曲を購入できる体験は、特に若い世代に強いインパクトを与えた。
邦楽アーティストの中でも、宇多田ヒカルやYUKIなど主要アーティストが次第にデジタル配信へと踏み出し始めた一方、チャートの主流にはまだタイアップに支えられたCDヒットが並んでいた。
テレビドラマ「野ブタ。をプロデュース」の人気とともに、修二と彰「青春アミーゴ」が年間唯一のミリオンを達成し、その他のタイアップ曲でも、ORANGE RANGE「花」やケツメイシ「さくら」、大塚愛「プラネタリウム」など、恋愛の終わりや切なさを描くミディアム・テンポの楽曲がヒットした。
また、倖田來未は「you」を皮切りにした12週連続シングル企画を成功させ、CDリリースそのものをイベント化する戦略で注目を集めた。
その一方で、BUMP OF CHICKEN「カルマ」やASIAN KUNG-FU GENERATION「リライト」、YUI「feel my soul」など、バンドやシンガーソングライターによる自作自演型の楽曲が存在感を増した。彼らの歌は、大人びた恋愛ではなく「自分探し」や「再生」といったテーマを内包しており、ブログやSNSを介して共感が広がる時代の感性と響き合っていた。
iTunesの登場は、アーティストやレーベルにとっても転換点だった。CDのパッケージ価値に頼らず、1曲単位でリスナーに直接届く経路が生まれたことで、「どんな曲が本当に選ばれるのか」という新たな競争が始まった。翌年以降、「着うた」市場の拡大とともに、配信チャートが音楽シーンの新たな指標となっていく。
2005年のJ-POPは、まだCDが市場の中心にありながらも、音楽の消費がモノからデータへ、テレビからネットへと動き出した“静かな革命”の年だった。
次回は2004年にさかのぼり、ケータイ文化が発展し始めた背景を探ってみたい。