2015年:ヒット曲を生むネット文化の萌芽
2015年、海外ではSpotifyがすでに音楽業界を変え始めていた。従来のCD販売やダウンロード中心のヒットとはまったく異なる“ストリーミングを起点としたヒット曲”が生まれるようになったことは音楽業界で大きく注目され、後のJ-POP界にも大きな変革をもたらすことになる。
しかし、当時の日本では、まだ、CDやiTunesで音楽を聴くスタイルが中心だった。ただし、YouTubeでの再生が次第に重要な指標となりつつあり、テレビ露出だけでなく、ネット上での再生やシェアが人気を後押しすることでヒットが生まれるという形が現れ始めていた。
back numberの「クリスマスソング」は、TVドラマ「5→9〜私に恋したお坊さん〜」の主題歌として広く知られた後、SNSでの共感投稿やストリーミング再生によって息の長いヒットとなった。 リリース当初はテレビ中心の話題だったが、ドラマ終了後もネット上で“片想いソング”として支持が続き、毎年冬に再生される定番曲へと成長した。ネット文化がヒットを長持ちさせた最初期の成功例と言えるだろう。
三代目 J Soul Brothersの「R.Y.U.S.E.I.」も、リリースは2014年だが「ランニングマン」ダンスの話題性がSNSで拡散、ロングヒットとなり、2015年の「日本レコード大賞」受賞へとつながった。
また、映画「ヒロイン失格」の主題歌として話題を呼んだ西野カナの「トリセツ」は、軽快なポップサウンドと親しみやすい語り口がSNS世代の女性たちの共感を呼び、発売直後からTwitterやLINEなどで歌詞のフレーズが広く引用・共有された。
さらに、2015年はベテラン勢が本格的にネット文化へ歩み寄り始めた年でもあった。サザンオールスターズはアルバム「葡萄」のプロモーションでYouTube映像を活用した。これは、テレビでの告知を中心としていた彼らが、ネットを宣伝の主導線に取り入れた象徴的な動きだった。
この他にも、B'zは公式チャンネルやSNS連携を強化し、ライブ中心だった活動をデジタルへ拡張。福山雅治はデビュー25周年を機に配信企画や動画メッセージを展開し、ファンとの距離を縮めた。DREAMS COME TRUEもモバイル会員向けコンテンツやSNS投稿でライブの熱を共有した。
こうして2015年は、新旧アーティストたちが、テレビやCDという本流にネットという新たな流れを重ね、デジタル時代への橋をかけ始めていた。
次回は、2014年にさかのぼり、CD中心・テレビ露出重視だったJ-POP界で、後のネット・SNS時代への布石となった出来事をふり返ってみたい。