2016年:音楽映像ソフトの普及
2016年の9月にはSpotifyが、Apple Music(2015年7月開始)から約1年遅れて日本上陸。すでに広まっていたSNSやYouTubeとともに、ミュージシャンたちがネットを通じてリスナーとつながる形が現れ始めていた。
TVドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の主題歌として注目を集めた星野源の「恋」は、2016年の音楽シーンを象徴するヒット曲のひとつだ。この曲はドラマの放送と同時に人気を得たが、「恋ダンス」と呼ばれる振付が一般視聴者によってSNS上で次々と投稿され、動画が拡散されていったことが話題となった。
こうした現象は、従来のテレビ主導のヒットとは異なり、「視聴(TVドラマ)×SNS(ユーザー投稿・拡散)×楽曲(音楽配信・CD販売)」という三位一体の新たなヒットモデルの成功例として注目された。
RADWIMPSの「前前前世」は、大ヒット映画「君の名は。」の魅力的なストーリーと美しい映像美が話題となる中で、エネルギッシュで疾走感あふれるメロディと歌詞が多くの観客の心を掴んだ。 ここでもSNSが大きな役割を果たし、海外のアニメや映画ファンの間でも口コミが広がった結果、音楽配信チャートや動画再生回数の記録にも影響を及ぼした。
また、2016年は、Blu-rayの普及とともに音楽映像ソフト市場が大きな成長を遂げた年でもあった。嵐の「ARASHI Live Tour 2015 Japonism」、三代目 J Soul Brothersの「LIVE TOUR 2015 “BLUE PLANET”」など、CD並みのヒット商品となるソフトが生まれ、「ライブを家で体験する」という新たな音楽文化が発展し始めた。
こうしたライブ映像文化の定着は、後の2020年、コロナ禍で発展・普及したオンラインライブ文化へとつながっていく。コロナ禍で、配信ライブがスムーズに受け入れられたのは、すでに「ライブを映像で楽しむ」感覚が根づいていたからだろう。2016年は、単に音楽映像ソフトがヒットしたということだけではなく、「ライブ体験のデジタル化」が本格的に始まる転換点ともなった。
次回は、ストリーミング登場前夜となった2015年のJ-POP界を探っていきたい。